雑記帳第32回「 思い込みに要注意 」


 古希を過ぎて生きていると、「人生初めて」といった経験をすることは殆どなくなります。しかし、今年の夏の暑さは何とも異常でした。外に出ることが「億劫」というよりも「怖い」と表現した方が適切なレベルの、まさに「人生初めて」の暑い夏でした。やはり「地球温暖化」なのだと思ってしまいます。しかし、まだ1年も経っていませんが、今年の1月から2月にかけて「10年に1度の大寒波」と言われる寒さに見舞われた日本列島でした。また、世界全体を見れば、確かに日本列島は暑かったものの、欧州の一部では11月くらいの気温と言われるほどの寒い8月でした。ですから、地球全体を均してみれば、本当に温暖化しているのかは判然としません。

 ところで、ご存じの方も多いかもしれませんが、「縄文海進」という学術用語があります。大体今から7千年前くらいの、日本でいえば縄文時代前期に当たる時期に、地球表面が受ける太陽光の増加による氷河等の融解がピークになり、海岸線が現在よりかなり内陸側に入り込んでいたことを意味します。つまり、縄文時代は今より温暖でした。平均気温で2~3度高かったと言われます。もともと地球は寒冷な氷期と温暖な間氷期を繰り返しており、学術的にも今の地球は寒冷化しつつあるという説が1980年代までは主流でした。それがなぜか1990年代以降いつの間にか地球温暖化説が世界を席巻するようになりました。何か新たな科学的大発見があったわけでもないのに、全く逆方向に認識が変わってしまうのも摩訶不思議です。

 縄文時代に話が及んだついでにもう一つ縄文時代に因んだ話題を取り上げます。私が学校で習った歴史の授業では、弥生時代の初め(紀元前4~5世紀)に朝鮮半島からの渡来人が稲作技術を持ち込み、それを契機にわが国が大きく発展した、ざっとこんなストーリーを教えられました。ところがその後の研究によれば、紀元前10世紀ころ(縄文時代晩期)にすでに国内で水田稲作が行われていたことが明らかになり、しかもそのコメのDNA解析によると朝鮮半島経由ではなく、長江下流域から対馬海流を利用して直接日本(九州)に伝来したと推定されるとのことなのです。これを踏まえると、縄文時代やそれに続く時代のイメージががらりと変わります。

 さて、上に記した「地学」や「考古学」に属することについては私は全く門外漢ですから、いわば素人の戯言みたいなものです。しかし、この小文の言わんとすることは、世の中に流布する定説・通説は常に変化し得るものであり、それを万古不易の理論として信じ込むのは慎重であるべきという自戒の念に他なりません。今やいつ何がどのように七変化してもおかしくない時代です。思考停止に陥らず、いろいろなルートで多面的な情報を得る努力こそが、いざというときに柔軟かつ適切に事を処する要諦であることを拳拳服膺しています。

会長 小 林 伸 一