雑記帳第21回「時代の境目」


 このたびの自民党総裁選挙は、まことに興味深いものでした。これまでと違って、党内各派のうち主要な派で内部の足並みがそろわず、誰がどの候補に投票するか最後まで読めない状況だったからです。ですから、事前のマスメディアの予測(かなり願望も含まれていた気配ですが)と実際の結果との間に相当な乖離が生じました。むしろSNSのいわゆるネット世論の方がより実態に近い捉え方をしていたようです。そういう意味では、報道各社の「神通力」もだいぶ色あせてきたように感じます。
 私が注目したいのは、この選出過程の変化もさることながら、各候補の主張内容の変化です。もう30年近くにわたってわが国政府の施策の根底には、緊縮財政主義と民間活力促進による「小さな政府」思想がありました。しかし、今回の総裁選挙では、あえて色分けすれば4人のうち3人がこの思想とはかなり色合いの異なる主張、つまりざっくり言って積極財政による「大きな政府」論を展開し、その中のお一人が総裁に当選しました。勿論その背景にはかれこれ2年近いコロナ禍で社会の隅々まで深刻な影響が及んでいることがあるわけですが、それだけにとどまらないもっと大きなうねりがあるように思われます。
 かつての高度経済成長時代、わが国は世界に冠たる「総中流社会」を実現しました。しかし、ここ20年以上国民の実質賃金は一貫して低下しつつ、上下二層に分化していく傾向が見られます。何とかこの流れを転換しなければという思潮の変化が、今強まっているように思います。これが今後実際にどこまで政策に具現化されるかは不透明ですが、おそらく紆余曲折を経ながらも徐々に政策転換が図られていくことになるのでしょう。
 こうした経済・社会政策の変化に加えて、全世界的なデジタル化の潮流への対応、そして、仮に新型コロナが終息したとしてもまた何時起きるとも知れないパンデミックに的確に対応できる社会態勢の構築など、これから色々と新たな局面に向き合っていかざるを得ないことを考えますと、まさに今我々は真に時代が変わる境目に立っていると言えるのではないかと思うのです。
 恐縮ながら今回はいつになく堅い話になってしまいました。こういう話題は本当は気の置けない仲間と一献やるときの絶好の肴になるのですが、まだ当分は沈思黙考しながら「家呑み」で我慢するしかありません。とはいえ、我慢もそろそろ限界です。

会長  小 林 伸 一 記