雑記帳第22回「100年前を振り返る」 


皆様、明けましておめでとうございます。令和4年になりました。徐々に人生100年時代という言葉が現実味を帯びつつある今日、100年経つと世の中がどう変わるのかを考える一つの手掛かりとして、今年令和4年の100年前にどういう出来事があったかを振り返ってみるのも面白いと思い、新年を迎えた機に調べてみました。

 令和4年、即ち2022年の100年前は、1922年、大正11年です。実は翌年の大正12年に関東大震災が発生し、これを境に日本の世相が大きく変わったとはよく言われることです。しかし、この大正11年も結構大きな出来事がありました。一つには健康保険法の制定です。この時点での保険の対象者は、今でいうブルーカラーに限定されたものでしたが、その後ホワイトカラーや日雇労働者にも対象が拡大し、さらには昭和36年に至って被用者以外の国民すべてを対象にした国民健康保険制度が施行され、「国民皆保険」が実現しました。今の日本ではどんな立場の国民でもほぼ等しいレベルの医療を低負担で受けられることが当たり前となっていますが、例えば米国の医療は驚くほど高額の費用が掛かり、低所得者は本来必要な医療でも諦めざるを得ないことが多いと聞きます。100年前が国民皆保険という世界に冠たる医療制度構築へのスタートの年であったことは大いに特筆されるべきでしょう。

 次に、鉄道敷設法に基づき、18,000kmもの新規建設予定線が決定されました。これは、当時の鉄道が陸上交通の基幹インフラと位置付けられていたことを背景としたものでしょう。この計画はその後のわが国の鉄道網整備に大いに寄与したものとみられますが、100年経った今、多くの地域の人口減少により全国的に鉄道の廃線が進んでいることは、まさに世の無常の典型のようにも思われます。

 活字文化の分野では、わが国における週刊誌の嚆矢として、「週刊朝日」と「サンデー毎日」がこの年同時に創刊されました。私も現役時代の出張では、新幹線の中でよく週刊誌を読んだものです。100年という長い歴史を持ちながらも、最近10年間の週刊誌販売部数の推移をみると、「朝日」は57%、「毎日」は44%減少しています。このところ世間の話題作りに奮闘している「文春」でも21%の減少です。近年の『活字離れ』の影響が、やはりこの分野でも如実に表れているようです。

 言うまでもなく、上に述べたことは、大正11年に起きたことのほんの一部です。加えて、この100年の間には戦争・敗戦という極めて大きな事象も含まれています。従って、これらを以て100年の時間軸をイメージするのは不可能と言っていいでしょう。一つだけ確かなことは、同じ100年でもこれからの時代はさらに目まぐるしく動くであろうということです。そういう激しい変化の中にあっても「自分」を持ち続けることの難しさをいま改めて感じています。

会長 小林 伸一 記